まず、心臓震盪から子供を救うために大切なことを述べます。
1) 心臓震盪は下手投げの軟式ボールが当たる程度でも起こることを理解しましょう。
2) 健康な子供でも起こることを理解しましょう。
3) 予防の第一は衝撃を胸に受けないように注意することです。そのためには、・小さな子供が無防備で遊んでいる公園などでは、近くでキャッチボールなどはしないように教えましょう。子供の時から周囲の弱者に対して優しく接する気持ちを育てることが大切です。・危険から頭を守るように、胸も守る意識を持ちましょう。お母さん、野球少年のアンダーシャツの胸部分にパッドを縫いつけてあげたらどうでしょうか。少年野球を指導する皆さん、打球や送球を胸で止めろなどと指導しては危険です。・「危ないから遊ぶな」ということではなく、何が危険なのか、安全に遊ぶにはどうするかを、子供に教えながら育てていくことが必要です。野球やサッカーなどの球技をするスペースと、小さな子供が遊具で遊ぶスペースの区別や危険度の違いが理解できようにしましょう。
4) 運動用具の適切性も予防につながります。小中学生が硬式ボールを使用するのは危険度が高いと思います。また、アイスホッケーや空手など防具を適切に使用しましょう。野球ではスポーツメーカーからはキャッチャー以外の胸の防具は出されていませんが、期待したいところです。
5) もし、ボールが胸に当たるなど衝撃を受けた直後に気を失って倒れ込むようであれば、心臓震盪を疑って下さい。救命手当が必要です。
6) 救命処置にはAED(自動体外式除細動器)による電気ショックが必要です。一般の人でも使用が可能になりました。是非、学校や公共施設に設置して下さい。そして、学校の先生、スポーツ指導者あるいはご両親の皆様、是非救命講習を受けてAEDの使用に慣れて下さい。
私たちは「心臓震盪から子供を救う会」として活動をしてきましたが、その目的は、・心臓震盪はそれまで元気な子供に突然おこる、・軟式ボールが当たるという軽い衝撃でも死亡する事がある、・その本態は心室細動という心臓の筋肉が痙攣してしまう致死的不整脈である、・命を助ける最良の手段はAED(自動体外式除細動器)を現場で使用する、ということを皆さんに知ってもらうことです。先ほどまで元気に遊んでいた、あるいはスポーツをしていた子供が、ボールが胸にぶつかったくらいで死んでしまうことがあるのです。
心臓震盪という言葉さえほとんどの人は知りません。ですから、起こったときの救命処置も知りません。そのため、救えたはずの子供の命を失っているのです。私たちは心臓震盪で亡くなった子供の死因が原因不明ではなく、心臓震盪であること、そしてAEDが現場にあれば助けることができたかもしれないことを知って欲しいのです。心臓震盪に関する知識があれば、少しでも発生を予防することもできますし、AEDを公園や学校などに設置する重要性も解ると思います。
アメリカは野球が盛んな国ですが、心臓震盪に関する危険性の理解は進んでいますし、AEDもパトカーや各施設に設置してあり、実際、公園で遊んでいて心臓震盪を発症した子供は近くにいたパトカーの警察官のAEDによる処置で救命されています。また、危険だからといって野球をする子供が減るどころか、安全な体制を作りつつ野球は盛んに行われ、大リーグの人気も絶大です。
「危険だから遊ばせない」という発想ではなく、子供達が安全に、安心して遊べる環境を整えるのが社会の責任だと思います。また、子供であってもキャッチボールやサッカーなどをするとき、その場所や状況が安全に行えるのかを考えることができるよう育てるべきです。「自分たちがやりたいからやる」ということでは、周囲の小さな子供など弱い立場にいる人に対する思いやりの心は育ちません。もちろん、危険なことを学びながら成長していくことも大切ですが、大けがや命の危険があっては本末転倒です。人間の優しさや思いやりの心を子供に教えていくのも私たち大人の大切な役割です。子供にとって安全な環境、それを知ってもらうための活動の一部が私たちの活動です。
死亡した子供の親は、なぜ子供が突然死亡してしまったのか、それを知りたいのです。周囲の人が心臓震盪のことを知らず、原因不明の心不全で死亡してしまったとなると、子供を失った悲しみだけでも辛すぎるのに、さらに親の気持ちはやりきれないものになってしまいます。死因を究明しようとするとその手段は、一般の人たちには民事裁判しか残されていないのです。そこを是非ご理解して頂きたいと思います。